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「3カ月に1回は張り替えましょうね」……なぜ3カ月?

あなたは「何を」目安に、ストリングを張り替えていますか?

みなさん、テニスショップへ行ったとき「ストリングは3カ月に1回くらいで張り替えましょうね」っていうセリフを聞いたことはありませんか? あれってみんな決まって「3カ月」っていいますけど、全部のストリングが同じくらいの張り替えローテーションなのかぁ? って思いません?

あの「3カ月に1度」伝説には、どんな根拠があるのでしょうか?

これは40年以上前から言われてきたもので、当時のストリングは、羊や牛の腸から作った天然素材の「ナチュラルガット」と、ナイロンなどの素材で作った「シンセティックストリング」しかありませんでした。ナチュラルガットを張る方は少なかったので、「3カ月に1度」はナイロン系シンセティックを張る方に対して呼びかけられた言葉です。

そう! ナチュラルガットの伸縮性は長期間に渡って保たれるのに対して、ナイロン系は「伸びる(伸縮性を失う)のが早い」ため、「活きた状態」で使うには、できるだけ短期間での張り替えが必要だったわけです。

ストリングメーカーやテニス専門店では、本当は「1カ月で張り替えましょう」くらいのことを言いたかったのですが、どんなに「毎月の張り替え」を訴えても、お客さんは応じてくれないだろう。ならばまずは「せめて3カ月に1度くらいで……と奨めよう」ということになっていった……ようです。

そしてそれがいつしか伝説化し、「3カ月に1度」が呪文のように唱えられるようになってしまいます。でもその間に「ポリエステル系」という、まったく新しい素材のストリングができてしまった……。はたしてこれも「3カ月に1度」が通用するのでしょうか?

ポリエステル系は、登場時に「切れないから耐久性が高い」と宣伝されることが多く、「張り替えが少なくてすむのならば経済的でいいじゃん!」と、ナイロン系から乗り換える人がとても多くいました。でも「切れない」ということと「耐久性」とはちょっと違うんです。しかも「寿命」という言葉になると、もっともっと違います。

「ポリエステル系が長寿命」と歓迎すべきは「ナイロン系だと、張り替えてすぐに切れちゃう」というガンガン系のハードヒッターで、こちらにとっては、たしかに「切れないことに対する長寿命」と言えますが、そもそもさほど切れない方にとっては「切れない」ことよりも「性能の持続性こそが寿命」なんです。

そうなると、ポリエステル系はフレームに張られた直後から、どんどん伸縮性の低下が始まり、非常に短い期間で底止まりに達してしまい、それ以降はずっと変わらない。ただし「切れない」。

それに対してナイロン系は、伸縮性の低下のしかたが緩やかで、徐々に反発性能が低くなっていきますし、ナチュラルガットに至っては、弛むペースも遅いし、切れないかぎりは伸縮性が非常に長期間に渡って保たれます。

ですから、従来の「ナイロン系:3カ月に1度」であれば、「ポリエステル系:1カ月に1度」くらいで考えるのがいいと思いますよ。ちなみにプロにとってのポリエステル系の寿命は、だいたい「1セット」です。彼らがたくさんのラケットをコートに持ち込むのは「セットごとにストリングを新品に替えるため」です。

筆者
松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。

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