ストリンガーの仕事はストリンギングのみならず?
去る2023年10月24日、関西地区のワークショップが開催されました。
テーマは「チューンナップあれこれ」。
ストリンガーの主たる仕事はストリンギングですが、本ワークショップではもう一歩踏み込んで、さまざまな観点からラケットについて掘り下げ、学びを深めました。
(ストリンギングを全く行わないワークショップは珍しいですが、去年は各地で開催されました。)
・ ラケット重量や静止バランス、スイングウェイトについて
(レッドテープの調整について)
・ レザー(本革)グリップの巻き方について
・ パレット交換について
etc…
こちらの内容について深く掘り下げることはできませんが、非常に有意義になったことは言うまでもありません。
さて、ここでは、ストリンガーとチューンナップについて、私見やエピソードを交え、少し書かせていただきたいと思います。
ラケットのチューンナップ…ストリンガーにとって本当に必要なことなのか?
もしくは、必要だとしても、プロ選手に対してだけのものなのではないのか?
恥ずかしながら、私も数年前まではそのような認識を持っていました。
(店頭で相談されることも稀でした。)
しかしながら、先輩ストリンガーが業務を行っている大会に見学に伺うと、皆さん決まって大荷物を持たれています。
張り工具だけならば、そんなにかさばらないはず。
「何を持って来られているのですか?」
聞くは一瞬の恥、と思い訊ねてみると、「いつ何時、どのような依頼があるかわからないから、不測の事態に備えるのがストリンガーだ」と。
工具や備品を拝見させていただくと、レッドテープ(鉛のテープ)に始まり、簡易タッカー、電動タッカー、ラケットに不具合が生じた際に応急処置を施せるものまで、ありとあらゆるものが揃っていました。
「本当に使うのですか…?」と改めてお聞きすると、「これが意外と使うんだよ」と。
海外の大会では、「何時何分までに、これと同じスペックにしておいて、2本ね!」といったように突然選手からラケットのスペックカップリングを依頼されることがあるそうです。
断るのは簡単ですが、プロ対プロの仕事です。
時間的な余裕は一切ない中でも、しっかり仕上げる。
それためには道具・スキルの準備は必要です。
また、私が実際に参加させていただいた大会でも、実際にそのような事態に遭遇したことがありました。
数年前の全日本ジュニアにて、突然ラケットが持ち込まれ、選手から一言…
「グリップが崩落してしまいました…!」と。
(グリップ下のウレタンが割れてしまい、使い物にならなくなってしまった状態、ということです。)
大会会場ではどうにもできないのでは…?
内心、そのように思っていたのですが、その場に居合わせたストリンガーの皆さんが持って来られた工具や備品を駆使して、なんとその場で応急処置が完了してしまいました。
私は一人、感嘆してしまいましたが、先輩ストリンガーにとっては、至極当然のことをしたまで、といった雰囲気でした。
(あくまでも大会期間中に使っていただくための応急処置で、基本的にはウレタンが崩落してしまったものは、お使い頂かない方がよろしいかと思います。)
信頼されるストリンガーになるためには、ただストリンギング技術が優れているだけでなく、ラケットに関するありとあらゆる悩みに対して、対応できなければいけません。
今では私も店頭にて、レッドテープの調整やレザー巻き替えなど、ご依頼に対応しておりますが、ワークショップで他のストリンガーの作業を拝見し、学び直すことがたくさんありますし、これはパクれそうだ!という新たな気づきもたくさんあります。
同時に、まだまだだな、、、と気持ちを引き締める場でもあります。
ストリンガーの仕事はストリンギングのみならず。
一例として大会について書かせていただきましたが、一般愛好家の方にもお悩みはたくさんあるはず。
(ラケットの重さを合わせて欲しい、レザーに巻き替えて欲しい、などなど。)
今お使いのラケットについて、なにか悩みごとがあれば、JRSAのお店を訪ねてみても良いかもしれません。
筆者 高岸 秀考 (有限会社起己スポーツ) 【店舗情報】 |