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「適性テンション」と「推奨テンション」は、どう違う?

昔は「保障範囲」だったカタログのテンション表示

冊子になったカタログや、メーカーホームページのWEBカタログを見ると、テンションについてのスペックが載っています。昔はほとんどすべてのカタログが「適正テンション」としていました。

でも……「適正」ってナニ?
じつは昔の意味と、今日の意味では、内容的に違うってことを知っていましたか?
そもそも昔の「テンション指定」って、じつにおおらか……っていうか、大ざっぱなものでした。まず張りに使うマシンが違うと、同じテンション指定でも「仕上がり」がけっこう違いました。

1980年代には、今では見ることのできない「分銅式マシン」と、「バネ式マシン」がメインであり、他に「油圧式」「エア式」などがありました。どのマシンにも「引張りテンション設定目盛」があって(分銅式は分銅の位置をズラして設定)、注文指定された数値に合わせれば、テンション設定完了です。

当時は、それが本当にその数値で引っ張られているかどうかを確認する張り手は、まぁほとんどいなかったでしょう。実際にその強さで引っ張られているかどうかを確認・調整する作業を「キャリブレーション」といいますが、それをメンテナンスとして常時行なっていたストリンガーは、筆者が知っているかぎり、片手で数えられるほど。

それはさておき、「適正テンション」を言葉どおりに捉えれば、「そのラケットの性能がきちんと発揮されるのに相応しいテンション」ということですが、昔は「もしもこのラケットが壊れたとき、保障対象内となるテンション」という意味合いが強かったのです。つまりテンション上限に意味があり、「これ以上強く張ると保障できません」という意図が組み込まれていました。

なぜなら、昔のラケットは、たとえカーボン製であっても意外に弱い場合があり、亀裂が入ったり、折れちゃうこともあり、形状的に強度が低い部分があったりもしました。でもカーボン自体の性能・強度が進化した今日では、ラケットをコートに叩き付けたりしないかぎり、めったに折れるものではありません。

そんな現在ですから、カタログには、本来の「性能発揮のための適正範囲」という意味合いで、各メーカーとも記載しています。ただ、昔はマシンのタイプによってずいぶんと仕上がりに差がありましたから、このテンション範囲表記について、筆者は「意味がないのではないか?」と考えたりもしましたが、昨今は電動マシンの普及によって以前よりは安定していますので、初めて使うラケットについては、この数値を目安に張ってもらうのがいいでしょう。

そうした経緯の「適正テンション」ですけれど、近年では「推奨テンション」とカタログ記載しているメーカーが多くなっています。「適正」という言葉が、どこか限定的ではないかと考えて、「オススメです」という意味で「推奨」としたのでしょう。

その幅をとても広くとっているメーカーもあれば、かなり狭い範囲に絞っているメーカーもあります。広い場合で「15ポンド幅」くらい。狭くて「10ポンド幅」くらいですが、注目したいのは「下限適正テンション」です。仮に「適正テンション:45〜60ポンド」のラケットに「38ポンド」で張った場合、それは「適正ではない」ということになるのか? という観点から、「推奨テンション」として、「テンションはあくまでプレイヤーの自由ですけど、このくらいがいいと思いますよ。
いちおうこんな感じで設計してますけど」と、ちょっと控えめなのが「推奨テンション」なのだと思います。

筆者
松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。

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