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振動止めにも歴史あり。そのバリエーションと効果は?

どうしても振動止めを使いたい……、
タイプと効果を知ったうえで選ぼう

前回のコラムでは「まずは振動止めを装着しないで打ってみてから判断」することを勧めましたが、そのうえで「振動止めを着けたい!」という方に、ぜひ知っておいてもらいたいことがあります。それは、『振動止めの種類と、効果の違い』です。

振動止めには、見た目ではっきりわかる「形状的違い」と、「使ってみなければわからない感覚的違い」があります。振動止めの元祖とされるのは、1980年代初期に発売されたフィッシャー【スーパーフォーム スタン・スミスXL】用として発売された『ヴィブラストップ』です。半個体エラストマー製・横長4cmほどの黒いベルト状で、センター2本の糸を表裏から折り畳んでラップして装着。それまでウッド製だったモデルをカーボン化したことで振動が気になり、それを抑えるための最小型スタイル。このラケットは、センター2本がとくに長いため、ストリングの振動幅が大きく、装着による振動スポイル効果はかなり高く、後に単体で販売され、どのラケットにも装着できるようになります。

次に登場したのが『スポンジタイプ』で、直径3cmほどの円筒型スポンジを縦に押し潰しながらセンター2本の間に挟み、手を離すと丸いぼんぼり状になるのです。非常に軽量なため、バランスにも大きな影響を及ばさず、これを愛用したプロ選手は数多くいました。「なんか丸くて可愛い!」と日本でも流行します。

次に登場したのが『ワームタイプ』といって、縦糸8〜10本にわたってウネウネと装着。厚ラケブーム時代によく売れました。当時の厚ラケは「しならないことでエネルギーを逃がさず、それを打球反発のパワーに戻すことでハイパワーを発揮」したわけですが、そのすべてがボールへ返されたのではなく、当然、腕のほうにも影響を与えます。「衝撃が大きい」と感じたプレイヤーは、ストリングの振動をがっつり抑えてくれる『ウォームタイプ振動止め』を装着することで、衝撃がなくなったような気がしました。でもストリングの振動を大幅に鈍感にしますが、衝撃は消せません。現在はアイテム数は少なくなりましたが、振動が気になってしかたない方のために残っています。

また、そこまで振動をスポイルしないけど、幅広くカバーする『横長タイプ』も誕生し、縦糸6本〜8本くらいに接触する振動止めも派生し、現在も多ブランドから発売されています。

それらとはまったく逆に「わずかに振動を抑える」(インパクト情報の多くを残しておく)方法として、アンドレ・アガシが使って話題になった『輪ゴムタイプ』もありました。文房具屋さんで売っている「幅広輪ゴム」を縦センター2本に結び付けるだけ。「気持ち程度に抑える」ところが、振動や衝撃を「手応え情報」として重視する上級レベルのプレイヤーが真似をしました。

さて、現在もっとも多く使われているのが、センター2本に装着する『丸型』『角型』ですね。非常に種類が多く、ファッションアクセサリーとして購入する方も少なくないですね。「どれでも同じだよ」と言って販売するお店もあるようですが、じつはそれぞれ効果に微妙な差があります。

このタイプは、振動止めを糸の間に挟み込むわけですが、その溝の深さや挟む圧力の差、糸との接触具合など、微妙な要素が振動スポイルに違った影響を与えるので、実際に試してみて決めるのがいいですね。そうしてみて、どれでも同じにしか感じなければ、それはそれでいいでしょう。

また「装着のしかた」によっても感じ方は違います。「縦センター2本と、横最下1本とに接触」するように挟むか、位置をもっと下げて「縦センター2本だけに接触」するように挟むか……。またじつは「振動止めの重さ」も効果に大きく関与していて、「重いほど振動を感じさせなくする」のですが、そうすると「スウィングしづらさ」に影響を与えるため、現在は、どれも大差ない重さになっているようです。

「振動止め」は、装着できる位置についてルールで規制されています。それについては次回のコラムでお話ししましょう……(続く)

筆者
松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。

【写真解説】

ソリッド型 センター2本タイプ 丸型 角型 ドーナツ型
ラケットでは縦糸を「メインストリング」と呼ぶように、手に伝わるフィーリングの7割を支配するのが縦ストリングという説があります。とくにセンター2本に発生する糸の振幅は大きく、これを抑えることで手への伝わりを削減できる。同じタイプでも、形状・質量・接触状態で効果は微妙に違ってくる

ワーム型 細い筒状の横長タイプ
センター2本装着タイプとまったく逆で「とにかく振動という振動がキライ!」という人が好むワーム型。「ワーム」というのは、イモムシのような形で縦糸にウネウネと接触するから。最近は減ってきているが、「高反発系厚ラケを使う、ゆったりスウィングのプレイヤー」がこれを好んで使うようだ

横長型 センター6〜8本をカバーするタイプ
ソリッド型とワーム型の中間的なタイプ。「ソリッド型では振動がありすぎるけど、ワーム型では鈍感過ぎてイヤ」という、やや高反発系を選ぶプレイヤーが好んでいる。かつてはラケットにオマケで付いていたことが多いが、最近は別売りのパターン。何本をカバーするかで効果が違ってくる

紐型 縦糸センター2本に結んじゃうタイプ
アンドレ・アガシが文房具の幅広輪ゴムを、縦糸のセンター2本に結んで使ったことから、真似をするプロが増え始め、それを模したアイテムも登場。振動を鈍感にする効果はもっとも低く、「振動は大切な打球情報だから消したくないが、音が気になる」という、どちらかというと上級プレイヤーが好むタイプ

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