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誰が張っても「同じ」じゃない JRSA技術の差

どうして仕上がりに違いが出るのか?

かつてテニスラケットへの「張り」は、手作業で行なわれていました。いわゆる『手張り』というやつで、ほんの40年ほど前までは、そうした「張り職人」さんが残っていました。

その後、機械にセットして張る方法が開発され、分銅の重さでテンションをかける「分銅式」、バネの力でテンションの調整をする「バネ式」、油圧でストリングを引く「油圧式」、エアコンプレッサーで「プシューッ」という音ともに張る「コンプレッサー式」などもあり、1990年代には、現代に使われている「電動式」が続々と誕生します。

こうした機械のことを『ストリンギングマシン』と呼びます。電動式マシンしか見たことがない方も大勢いらっしゃるでしょう。また「機械が張ってくれるのだから、誰が張っても同じでしょ」と思われている方も、少なくないかもしれません。

でも、同じテンション指定をしても「張り手」、つまりストリンガーが違うと「張り上がり」は、ずいぶんと違うものです。同じラケットに・同じストリングを・同じマシンで・同じテンション設定で張っても、張る人が違うと、「同じ仕上がり」にはなりません。

「えぇっ! これが同じ指定?? マジっすか???」というくらい違う場合もあります。また、張り上がったときには同じような感じでも、使っているうちにどんどん違いが露になってくる場合もあります。

プロトーナメントでのオフィシャルストリンギングの基本的ルールは『Same Machine:Same Stringer』です。プロプレイヤーは、張りの微妙な違いにも、きわめて敏感です。彼らはけっして「誰が張っても同じでしょ」なんて考えていません。できるかぎり、信頼できるストリンガーを選び、張りの環境が違えば、可能な限りの調整を試みます。

今日、プロのストリンガーが使うのは、ほぼ100%「電動式マシン」で、過去のマシンとは正確性・安定性がまるで違います。なんたってデジタルですから! でもね、安心しちゃあいけません。「機械が正確なんだから、誰が張っても同じになるはず」なんて世界じゃないんです。いかに精度の高い電動マシンでも、しょせんは「道具」であり、それを使うのは人間です。

電動式マシンが正確なのは「ストリングを引くときのテンション」です。ここまでは、どのマシンでも正確な数値を示しますが、その後が違います。マシンでも「ストリングを留める爪(クランプ)のスベり・傾き」が出ますし、「テンションをかけたストリングを、どの位置でクランプで固定するか」「張っている途中のストリングの歪みを、いつ、どのように真っ直ぐに直すか」「ストリングを最終的にロックする留め方(ノット)の種類」など、さまざまな段階で差が生じます。もっと細かく言うと「最後のノットを、どの位置で留めるか」などによっても、「張り」は違う結果になることもあります。

「張り」っていうのは「手作業」なんです。いろんなストリンガーに張ってもらっているプレイヤーならば、その仕上がりに違いがあることは重々承知でしょう。JRSAでは、すべてのメンバーが『理想的な張り上がり』を求めて日夜精進しています。日常の張り作業をしているときでも、いつも「ベストな張り上がりにするには、どうしたらいいか?」と考えています。

すべてのJRSAメンバーが「プレイヤーが、より良いラケット環境でプレイできること」を願って張っています。

安ければいい……、早ければいい……、そうではありません。繰り返しますが、ストリンギングマシンはあくまで道具。「張りは手作業・技術」なのです。

筆者
松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。

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